大野教会 

西彼外海町神浦、下大野郷。1893年しゅん工
石積み造り。県指定文化財  筆者撮影

和洋折衷の不思議な姿

「『歴史を消し去る歴史』の上には、流れ去る記憶しか残らない」。東大教授の鈴木博之著「日本の近代十 都市へ」(中央公論新社平成十一年)の末尾の一節であるが、このメッセージの重要性を認識する体験をした。県庁土木部在籍中の一昨年の暮れ、池島閉山をひかえた外海町役場を訪問した帰途、著名な建築写真家の三沢博昭氏が特に推しておられる、石積の大野教会を見る機会を得た。
「出津教会完成後、ここ大野地区の信者のために明治二十六年に建築された巡回教会で周辺から採石した玄武岩を外壁にした和瓦葺きの建物。外壁は「ド・ロ壁」といわれ、赤土を水に溶かした濁液で砂と石灰をまぜて石材を積み上げたもの。素朴でひなびたローカル性のなかに捨てがたい雅趣があり風土に密着した教会建築として貴重な文化財。」とある。
ド・ロ神父は五十代前半の壮年、「信教の自由」を含む明治憲法の発布直後の建造だ。世界中のどこを捜してもここでしか見ることができない和・洋折衷の不思議な姿をした教会堂建築である。
偉大な手に成る稀有な歴史の痕跡を消え行くままに見送るのか?建築史として単なる文字の記憶に封印するのか?「現代」は、いかなる歴史を後世に残すのか?我々に問いかけてくる。台風で屋根の一部が傷んでいる教会を前に絶句して佇んだ。(一月末の外海町教育委員会のお話では、幸いにも、関係者の努力により本格的修復の準備が着々と進んでいるとのことである。)

左海冬彦(さかい・ふゆひこ、長崎市生まれ。国土交通省勤務)
2003年2月8日長崎新聞掲載